束の間の幸せ

ようやく、家の外壁塗装が始まった。 ようやく、としたのは、外壁塗装について両親がずいぶん揉めたから。 外壁塗装の話を最初にしたのは母親。 母親、「家の外壁塗装は、どうするの?」 父親、「任せるよ」 父親の「任せるよ」は、母親からすれば責任放棄に思えたのだろう、母親は父親に詰め寄った。 母親、「外壁塗装をしたくて言ってるわけではないの!家を建て替える器量が、貴方には無いから外壁塗装の話をしたの!」 そう言われたら、父親はカチンと来たのか 父親、「器量が無いって何だよ!ちゃんと働いているだろ!」 ここで、母親が「言い過ぎた」と謝れば良いのだが、私の母親は自分から折れる人ではない。 母親、「器量が無いって、稼ぎが少ないってことよ!」 中学生の妹が私の手を握ったのは、両親のケンカが発展するのを恐れているから。 私、「もうヤメなよ」 両親のケンカを止めた時の私は、足が震えていた。 妹が私の背中に隠れるのを見て、これ以上はマズイと思ったのか、夫婦ケンカは一旦中断。 学校から帰ると、駐車場に妹がいた。 妹が家に入れないのは、両親がケンカをしている時。 家の中が静まるのを見計らってから、私は妹を連れて家に入る。 台所のテーブルの上には、塗装業者さんが置いて行った見積書と電卓があり、両親は恐らく外壁塗装の支払いのことで揉めていたのだろう。 両親が揉めている時は、御飯は食べられない。 翌日、学校の給食で出されたパンを持って帰って来たのだが、両親はケンカをしていなかった。 数日後、家の外壁塗装が始まった。 塗装業者さんが来ている間は、両親はケンカをしないため御飯が食べられた。 数週間後、 妹、「お兄ちゃん、明日で外壁塗装は終わりだって」 外壁塗装が終われば、また、両親は揉める、今度は何で揉めるのだろう? 塗装業者が来なくなっても、両親がケンカすることはない、どうしてだろう? 妹、「家がキレイになったから、お母さん達はケンカしないのかな?」 両親がケンカをするのは、決まってお金絡み。 両親の機嫌が良いのは、予想以上に外壁塗装が安く済んだからだ。